初めてこの地に入り開拓を行なった八丈島からの先人達は、陽が暮れると家の軒先で若者からお年寄りまで世代に関係なく一台の太鼓を叩いた。
暗闇の中に響き渡るリズムや音を聞いただけで、どこの誰が叩いているのか分ったという。
平成3年、川満 廣司 氏の呼びかけで、「子供達で大東太鼓を叩こう」が提案され、幼稚園児から中学3年生までが参加する、南大東村 碧会(あおいかい)発足した。 碧会代表 川満 廣司 氏の指導のもと定期的な練習が開始されるようになった。
サトウキビ栽培を主産業とする、人口約1300人の南大東村には高校がなく、卒業後ほとんどの子供達は沖縄本島などに進学する。 四方を珊瑚礁で囲まれた断崖絶壁の南大東島。 豊かな自然に育まれた島の子供が、自信と誇りを持って学校でも仕事においても生きてほしい。これは島の親達の切なる願い。若い世代への期待は大きい。
約20年前に始まった大東太鼓の練習は、島の最高学年である中学生のリーダによって引き継がれ、今日も幼稚園児や小学校低学年を含めた後輩達に技術や礼儀を伝える。
大東太鼓は、八丈太鼓をルーツとする両面打ちの太鼓で同じリズムを刻む「下拍子」とそのリズムに合わせて呼吸を合わせながら、 気持ちの高まるままに全身の力を使って叩く「上拍子」の二人一組のアドリブ演奏。
日々の練習では、相手との呼吸をはかりながら曲を作り上げていく演奏を繰り返し行なう。 伝統の継承はもちろんのことだが、子供達に島の子として生きる自信を持ってほしいという、親達の強力なサポートを受け 他の地域では例を見ない大東太鼓碧会は、沖縄や京都、東京、をはじめ、地域のイベント等にも積極的に参加し、 沖縄文化とは異なる文化が根付いている南大東島を全国に広くアピールしている。
「宝探しから持続可能な地域づくりへ」学芸出版社より抜粋
大東太鼓碧会は、2005年「第4回東京国際和太鼓コンテスト」(組太鼓青少年の部)東京代々木オリンピック記念青少年総合センターに出場した。 申し込み団体136組のなかから、ビデオ審査を経て選ばれた10組に入ったのである。 南大東の子供達の演奏が終わるや会場が拍手に包まれ、子供達も付き添いの大人達も優勝を確信したという。 ところが入賞さえ逃す残念な結果だった。しかし、審査員は太鼓の奏法の規矩に適合しないため優勝とすることはできないが、独創性に富んだ優れた演奏であるという高い評価を与えた。 「ナンバーワンよりオンリーワン!」子供達の声が響いた。
子供達の落胆を心配する大人達をよそに、子供達は独創性の評価こそ自分たちにふさわしいと、この結果をむしろ自身をもって受け止めた。
「伝統を受け継ごう」とか「残そう」とか力を込めた感じではなくて自然体で今やっている事を楽しむという感じ。 この先も子どもたちに続けてもらいたい。ただそれだけですね。自然体で。
撮影当日は中学生が試験期間中であったり、スポーツ大会で那覇に遠征している子どももあり、 撮影できた子供達は、全会員の約半数の人数だったにもかかわらず力強い演奏を見せてくれた。
南大東村 大東太鼓 碧会